法律情報LEGAL INFORMATION
2026.10.13 Tue

IT法レポート(2026年6月~8月版)

 近年、テクノロジーの進化や働き方の多様化に伴い、IT業界を取り巻く法規制は目まぐるしく変化しています。しかし、日々の業務と並行して、これらの最新情報を正確にキャッチアップすることは容易ではありません。
 本レポートでは、主にIT企業の皆様向けに、法的トラブルを未然に防ぎ、安心して事業に専念できるよう、重要な関連法の施行・審議状況をいち早く整理して解説します。

 なお、本記事は、当事務所で配信している「IT法レポート」(2026年10月5日配信分)の内容を、アーカイブとして再編集したものです。

1 関連法の施行状況

 今後施行が予定されている法律及び既に施行された重要な法改正については、別途表形式でまとめています。以下のページをご覧ください。
IT・スタートアップ関連法の施行状況

2 IT関連法、スタートアップビジネス関連法の施行・審議状況

2.1. データ・個人情報

 前号では法案段階であった個人情報保護法ですが、2026年7月に成立し、7月17日に公布されています(個人情報保護法等の一部を改正する法律について)。原則として公布日から2年以内の政令で定める日に施行されます。個人情報保護委員会は、公布後に政令・規則・ガイドライン等の整備に向けたロードマップや、政令・規則等で定める事項の全体像を示しており、具体的な規制を定める段階に移っています。ロードマップによると、政令・規則は2027年1月ころに案が示され、3~5月に公布予定とされており、ガイドラインやQ&Aはさらにそれ以降に公布される予定とされています。企業側では、詳細な政令・規則が出る前に全面的な対応を行う必要はありませんが、どの業務が改正の影響を受けるかを検討しておいてもよいでしょう。

2.2. AI

 AI分野では、AI法で、国の基本計画を定めることとなっており、2025年12月に基本計画が定められていましたが、これが改正され、2026年7月14日に新たな「人工知能基本計画」が閣議決定されました(概要)。従前より示されていた大きな4つの基本的な施策(AI利活用の加速的推進、AI開発力の戦略的強化、AIガバナンスの主導、AI社会に向けた継続的変革)等、方向性について変更はなく、AIエージェント等の進展を前提に、改訂がなされたものです。基本計画自体が企業に直接の義務を課すものではありませんが、今後の指針・政策・制度の基礎となるため、AIの利活用を検討する場合には参照すべき資料です。
 さらに、知的財産戦略本部は8月25日、「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード」を公表しました。法的強制力を有する規制ではありませんが、生成AIの開発・提供事業者を念頭に、知的財産の保護と透明性について「コンプライ・オア・エクスプレイン」型で対応を促すものです。生成AI事業者(生成AIの開発者やサービスに組み込んで提供するような場合)は、プリンシプル・コードに対応するか否か、対応する場合には公表事項の内容や権利者等から照会があった場合の対応等を検討しておく必要があります。
 また、法務省は8月21日、AI等を利用した法務業務支援サービスと弁護士法72条との関係について新たなガイドライン等を公表しました。AIを用いた契約審査、法務相談支援等を提供する事業者は、内容を検討し、対応しておく必要があります。

2.3. セキュリティ

 セキュリティについては、2026年7月31日、サイバーセキュリティ戦略本部が「重要インフラのサイバーセキュリティ対策のための統一基準」を決定しています(概要)。重要インフラ分野では、従来は重要インフラのサイバーセキュリティに係る行動計画(概要)を基礎に各分野・事業者が自主的に対策を進めていましたが、分野横断で参照できる具体的・統一的な基準がなかったため、改正サイバーセキュリティ基本法に基づき共通の基準を整備したものです。統一基準は2026年10月1日の施行が予定されています。重要インフラ事業者だけでなく、そのシステム開発・運用、クラウド、セキュリティ等を担うベンダーにも、委託先管理や契約上の要求水準を通じて影響が及ぶ可能性があります。自社が直接の対象でなくても、顧客から求められる対策、インシデント報告の期限・内容、再委託管理、バックアップ・復旧、脆弱性管理等を棚卸ししておくことが有用です。
 また、サイバー対処能力強化法等についても10月1日の主要規定施行に向け、対象となる特定重要電子計算機や報告様式・解説等の具体化が進んでいます。対象となり得る事業者は、法令上の届出・報告主体と、実際に事象を検知する委託先・SOC・クラウド事業者との役割分担を確認し、契約上の通知義務が法定報告に間に合う設計になっているかを確認する必要があります。

2.4. プラットフォーム

 スマホソフトウェア競争促進法関係では、公正取引委員会が公開しているアプリデベロッパ向けFAQが、7月27日付で更新されています。FAQでは、代替アプリストアによるアプリ提供、指定事業者以外の課金システムの利用、外部ウェブストアへのリンクアウト等が具体的に説明されています。
 情報流通プラットフォーム法関係では、総務省の「違法情報ガイドライン」が8月6日に改定されました。大規模プラットフォーム事業者にとっては、削除申出への対応や違法情報の判断基準を運用に落とし込む際、最新ガイドラインとの整合性を確認する必要があります。
 また、同法の「大規模特定電気通信役務提供者」として、新たにピクシブ(pixiv)やnote等の運営者が指定されています。指定事業者には、権利侵害情報の削除申出窓口の整備、削除判断の迅速化、削除基準や運用状況の公表、侵害情報調査専門員の選任等が求められます。

2.5. オンラインサービス・消費者関連法

 消費者庁は2026年9月10日、「現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会」(中間とりまとめ)及び「デジタル取引・特定商取引法等検討会」(中間とりまとめ)の中間取りまとめをそれぞれ公表しました。デジタル化やサブスクリプションサービスの普及、SNS等を介した新たな取引形態を踏まえ、消費者取引に関するルールを幅広く見直す方向性が示されています。

【消費者契約法】

  • 心理状態や取引環境等を含む「消費者の多様な脆弱性」への配慮
  • 深刻な不利益を生じさせる契約について、一定の場合に契約から解放する仕組み
  • サブスクリプション等における解約妨害への対応
  • 契約内容を変更する場合の通知の在り方

【デジタル取引・特定商取引法】

  • 消費者の判断を歪める「ダークパターン」への対応
  • SNSのチャット等を通じた不意打ち的な勧誘への規律
  • 緊急時に高額な料金を請求する「レスキュー商法」への対応
  • オンライン上の表示、勧誘、契約締結、解約までを通じたルールの整備

 いずれも現時点では中間取りまとめの段階であり、具体的な法改正の内容や要件は今後の検討に委ねられています。オンラインサービスやサブスクリプションサービスを提供する事業者は、今後の制度化によって、利用規約、契約内容変更時の通知、申込み画面・解約画面、解約導線、SNS等を利用した営業・勧誘方法などの見直しが必要となる可能性があるため、引き続き動向を確認する必要があります。

2.6. 会社法、金商法等

 金融庁及び東京証券取引所は7月21日、「コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)」を確定・公表しました。今回の改訂では、企業の持続的成長や企業価値向上を意識した取締役会の機能強化等が重視されており(コーポレートガバナンス・コードの改訂(2026年)の概要)、取締役会の機能強化に関する 事例集 も公表されています。
 会社法制については、3月に公表された「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」について5月までパブリックコメントの募集が行われ、その後も法制審議会で検討が続いています。中間試案では、株式制度、自己株式取得、株式併合、株主総会、電子提供制度等、幅広い論点が対象となっています。

2.7. 労働法

 厚労省は、2026年6月30日、ストレスチェック結果の集団分析に関する労働安全衛生規則を改正しています(同法52条の14第1項)。事業者は、ストレスチェックを実施した医師等に、部署等の一定規模の集団ごとに結果を集計・分析させるよう努めることとされていますが、改正により、この集団分析を「特定の個人を識別することができない方法」で実施することが明記されました。厚生労働省は、個々の労働者を特定できないことを前提としてきた従来の解釈を明文化したもので、従来の運用を変更するものではないとしていますが、これに加えて個人を識別可能な方法による集団分析は、努力義務を履行したことにならないだけでなく、労働者のプライバシー保護の観点から許容されないともしており、労働者の個人情報の分析に一定の歯止めをかけるものといえます(労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について)。


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(弁護士 安藤 広人)