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所有者不明・管理不全の土地・建物の管理制度【令和3年改正民法特集③】

2023.08.30 Wed  PHI LAW OFFICE STAFF

1 はじめに

 相続等により土地の所有者が変わったにもかかわらず、登記がされないまま長期間経過することで、所有者が誰なのかがわからなくなってしまった土地や建物が全国に多数存在し、問題となっています。
 所有者不明の土地・建物を放置すると、管理が行き届かなくなり、環境、防災、治安等の面で周辺に悪影響を及ぼすとともに、土地の有効活用ができなくなるため、社会経済上もマイナスとなります。
 また、所有者は判明しているものの、擁壁にひび割れや破損が生じて隣地に倒壊する恐れが生じている場合や、ゴミが山積していることにより周囲に臭気や害虫の被害が発生している場合など、管理不全の土地・建物が近隣に悪影響を及ぼすという事態も社会問題になっています。
 財産管理に関する既存の制度としては、不在者財産管理人(民法25条1項)、相続財産管理人(改正前民法952条1項)、清算人(会社法478条2項)などがありましたが、対象者の財産全般を管理するという点で非効率になる場合もあるほか、予納金の高額化等の点で申立人にとっても負担が大きいというデメリットがありました。また、そもそも、所有者を全く特定できない土地・建物については、これらの制度を利用することができませんでした。

 そこで、令和3年の民法改正により、所有者不明土地・建物管理制度と、管理不全土地・建物管理制度が新たに創設されました(令和5年4月1日施行)。
 所有者不明土地・建物管理制度により、不動産に特化した管理を実現することができ、予納金の負担も軽減されるとともに、所有者が不明である不動産についても管理が可能となりました。
 また、管理不全土地・建物管理制度により、所有者の所在が判明しているが、管理不全の土地・建物についても、管理人を通じた適切な管理を行うとともに、管理不全状態を解消することが可能となりました。
 

2 所有者不明土地・建物管理制度

 裁判所は、所有者または所有者の所在が不明であり、管理の必要性が認められる土地・建物について、利害関係人の請求により、所有者不明土地・建物管理人による管理を命ずる処分をすることができます(264条の2第1項・264条の8第1項)。
 管理命令の効力は、対象となる土地・建物のほか、その中にある動産や、建物の場合は敷地利用権(借地権等)にも及びます(264条の2第2項・264条の8第2項)。
 また、対象となる土地・建物の管理・処分権は所有者不明土地・建物管理人に専属し、管理人は、対象財産の保存、利用、改良行為のほか、裁判所の許可を得て、対象財産の処分(売却、建物取壊し)も行うことができるようになりました(264条の3・264条の8第5項)。
 

3 管理不全土地・建物管理制度

 裁判所は、所有者による土地・建物の管理が不適当であることによって、他人の権利・法的利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあり、管理の必要性が認められる土地・建物について、利害関係人(隣地所有者等)の請求により、管理不全土地・建物管理人による管理を命ずる処分をすることができます(264条の9第1項・264条の14第1項)。
 管理命令の効力が及ぶ財産の範囲は所有者不明土地・建物管理制度と同様、対象土地・建物内の動産や、敷地利用権にも及びます(264条の9第2項・264条の14第2項)。
 また、管理人は対象となる土地・建物の管理処分権を有しますが、所有者の存在が明らかであることから、管理人が対象財産の処分(売却、建物取壊し)を行う場合は、所有者の同意も必要とされます(264条の10・264条の14第4項)。
 なお、所有者不明土地・建物とは異なり、管理不全土地・建物は、所有者の存在が判明しており、かつ、所有者が当該土地・建物に居住しているケースが多いところです。所有者が発令に反対していても、裁判所は管理命令を発することが可能とされていますが、所有者が居住中で管理行為を妨害することが予想されるなど実効的な管理が期待できない場合は、隣地所有者としては、従前どおり訴訟手続において妨害排除請求権等を主張することにより解決を図らざるを得ない場合もあります。

(弁護士 内田 靖人)

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