「民法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第24号)による共有に関する規定の改正は、主に、共有の法律関係のルールを明確化するとともに、他の共有者が不明の場合又はその所在が不明の場合で、円滑な共有物の利用・管理に支障が生じている事態への対処を目的として行われたものであり、2023(令和5)年4月1日に施行されました。
なお、以下、単に「法」という場合は、上記改正後の民法を指すものとします。
1 共有物を使用する共有者と他の共有者との関係(法249条) 2 共有物の変更・管理(法251条・252条) (1)軽微変更の規律(法251条1項括弧書・252条1項) (2)共有物を使用する共有者がいる場合の規律(法252条1項後段・同条3項) (3)短期賃借権の設定等(法252条4項) (4)所在等不明共有者(法251条2項・252条2項1号)・賛否不明共有者(法252条2項2号)がいる場合の規律 3 共有物の管理者(法252条の2) 4 裁判による共有物分割(法258条)・相続財産に属する共有物分割の特則(法258条の2) (1)裁判による共有物分割(法258条) (2)相続財産に属する共有物分割の特則(法258条の2) 5 所在等不明共有者の持分の取得・譲渡(法262条の2・262条の3) (1)不動産の共有関係を解消するための制度(法262条の2・262条の3) (2)共同相続人が共有物を時効取得する制度の創設の見送り |
従来、共有物の使用者と他の共有者との法律関係については不明確な点がありました。改正によって、共有者は、①共有物全部についての使用権を有するとしても(法249条1項)、②その使用によって権利行使を妨げられた他の共有者の持分権を保護する必要があることから、使用者は、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を支払う義務を負うものとされました(法249条2項)。
また、③使用者は、他の共有者の持分との関係では、他人の物を管理していることになるため、善管注意義務が課されるということも明文化されました(法249条3項)。
従来共有物に変更を加える行為は、程度にかかわらず、共有者全員の同意が要求されていたため、円滑な共有物の利用・管理に支障が生じていましたが、軽微変更については、法251条1項括弧書・法252条1項で、各共有者の持分価格の過半数によって決定することができるものとされました(注1)。
改正前 | 改正後 | |||||
行為類型 | 条文 (改正前) |
同意要件 | 行為類型 | 条文 (改正後) |
同意要件 | |
変更 | §251 | 全員の 同意 |
変更(軽微以外) | §251Ⅰ | 全員の 同意 |
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管理 (広義) |
変更 (軽微) |
§251Ⅰ括弧書 ・§252Ⅰ |
持分の 価格の 過半数 |
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管理 | §252 本文 |
持分の 価格の 過半数 |
管理 (狭義) |
§252Ⅰ | ||
保存 | §252 但書 |
各共有者 単独 |
保存 | §252Ⅴ | 各共有者 単独 |
従来必ずしも明らかではありませんでしたが、改正によって、①共有物を使用する共有者がいる場合であっても、共有物の「管理」に関する事項の規律(持分価格の過半数で決定)が適用されるということが明文化されました(法252条1項後段)。
その上で、当該使用する共有者の利益にも配慮する必要があることから、②その決定を変更する等、共有物の「管理」に関する事項を決定することが当該共有者に「特別の影響を及ぼすべきとき」は、当該共有者の承諾を求める規律も導入しました(同条3項)。
所定の期間を超えない短期の賃借権等の設定は、共有物の「管理」に関する事項にあたり、持分価格の過半数で決定できることが明文化されました(法252条4項)。
どのような賃借権等の設定であれば、共有物の管理に関する事項として持分価格の過半数で決定することができるのかを明らかにし、共有物の円滑な利用・管理を図ることを目的とした改正となります。
共有物について円滑に利用・管理することができるようにするため、所在等不明共有者や賛否不明共有者がいる場合であっても、他の共有者だけで、裁判所の関与の下、共有物の変更・管理に関する事項を決定することができるようになりました(法251条2項・252条2項1号、法252条2項2号)。
なお、賛否不明共有者の場合は、共有物の管理に関する事項のみが当該規律の対象であり、変更に関する事項については対象となっていません。
①共有物の管理者の選任・解任が、共有物の管理に関する事項として、持分価格の過半数により決定できることが明確化されました(法252条1項)。
また、②法252条の2では管理者の権限等についても定められ、同条1項で管理者の権限について、同条3項で管理者の義務について、同条4項で管理者による違反行為の効力について定められています。
これらの管理者の規定によって、共有者の便宜を図りつつ、共有物の適切かつ迅速な管理を実現することができるようにしています。
もっとも、管理者と共有者の法律関係や、特別法による管理者等の規定との関係(注2)については、必ずしも明らかとはなっておらず、今後の解釈に委ねられるところです。
裁判による共有物の分割について、従来必ずしも明らかでなかった分割方法の検討順序等について、①法258条2項は、現物分割(同項1号)と賠償分割(同項2号)とを優劣を付けずに列挙することで、両分割方法の関係を明確化するとともに、②同条3項で、競売分割については、現物分割及び賠償分割との関係では補充的な位置付けであることを明確化しました。
また、①遺産分割の利益を保障するため、遺産共有関係の解消は遺産分割手続によることとされていた従来の取扱いは、改正後も基本的に維持されることとなります(法258条の2第1項)。
もっとも、②法258条の2第2項本文は、遺産共有持分と通常の共有持分とが併存する場合に、相続開始の時から10年を経過したときは、相続財産に属する共有物の持分について法258条の規定による共有物の分割をすることができるとし、この限度で共有物の分割手続で一元的に共有関係を解消することを認めました。
相続開始時から10年を経過したことを要件としているのは、当該期間を経過するまでは遺産分割の利益を受ける機会を相続人に保障する必要があるからです。この要件は、今回の改正で、具体的相続分による遺産分割について相続開始時から10年という時的限界が新たに設けられたこと(法904条の3)とも一体をなす規律となります。
従来所在等不明共有者によって共有物の利用・管理に支障が生じていたことから、所在等不明共有者との共有関係を解消するための制度として、対象を不動産に限定しつつ、裁判所による慎重な判断等のもと、所在等不明共有者の同意なく、①所在等不明共有者の持分の時価相当額の支払をして、所在等不明共有者の持分を他の共有者が取得する制度と(法262条の2)、②不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて案分した額の支払をして、所在等不明共有者の持分を含めて不動産全体の所有権を第三者に譲渡することができるようにする制度(法262条の3)が、新たに創設されました。
なお、所在等不明共有者との共有関係を解消するために、他の共同相続人が当該共有物を時効取得する制度を創設することも検討されていましたが、この点について、法制審議会は、取得時効の成否は事案ごとの適切な事実認定等に委ねることとし、特に規律を設けないものとしました(注3)。
(注1)
共有私道で補修工事等を行う場合の改正民法の共有に関する規定の解釈について、具体的な事例を用いて解説したものとして、共有私道の保存・管理等に関する事例研究会著『所有者不明私道への対応ガイドライン-複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書〔第2版〕』(金融財政事情研究会、2023)。
(注2)
特別法による管理者等の規定としては、船舶管理人(商法697条1項)、株式が準共有される場合の権利行使者(会社法106条)、区分所有建物の管理者(建物の区分所有等に関する法律25条1項)等が挙げられます。
なお、改正民法が株式の準共有の規律(会社法106条等)に与える影響について詳細な検討を行ったものとして、仲卓真「令和3年民法改正が株式の準共有に与える影響(上)(下)」旬刊商事法務2306号(2022)4頁以下、2307号(2022)73頁以下が参考になります。例えば、同稿は、権利行使者(会社法106条)と共有物の管理者(法252条の2)の関係について、「権利行使者と共有物の管理者の関係は、基本的に共有物の管理者が権利行使者を内包するものであると理解することができる。」としています。
(注3)法制審議会民法・不動産登記法部会資料42「遺産の管理と遺産分割に関する見直し」10頁。
(弁護士 石川 諒)