従来から、土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができるとされていましたが(旧民法209Ⅰ本文)、改正法によって、以下のように隣地使用権の内容に関する規律が整備されました。
【隣地使用が認められる目的】
1 障壁、建物その他の工作物の築造、収去、修繕
2 境界標の調査・境界に関する測量
3 新民法233Ⅲによる越境した枝の切取り(新民法209Ⅰ)
他人の土地や設備を使用しなければ各種ライフラインを引き込むことができない土地の所有者は、従来は改正前の相隣関係規定等の類推適用により、他人の土地への設備の設置や他人の設備の使用をすることができると解されていました。しかし、権利を行使する際の事前の通知の要否などのルールや、使用に伴う費用の支払義務などが不明瞭でした。
そこで、改正法は、設備設置権(他の土地にライフラインの設備を設置する権利)があることを明文化しました。
すなわち、他の土地に設備を設置しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付を受けることができない土地の所有者は、必要な範囲内で、他の土地に設備を設置する権利を有するとされました(新民法213の2Ⅰ)。「その他これらに類する継続的給付」には、電話・インターネット等の電気通信が含まれます。
また、設備使用権(他人が所有するライフラインの設備を使用する権利)についても明文化しました。
すなわち、他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付を引き込むことができない土地の所有者は、必要な範囲内で、他人の所有する設備を使用する権利を有するとされました(新民法213の2Ⅰ)
他の土地に設備を設置し又は他人の設備を使用する土地の所有者は、あらかじめ、その目的、場所及び方法を他の土地・設備の所有者に通知しなければならない(新民法213の2Ⅲ)とし、事前通知の必要があることが明確になりました。
土地の所有者は、他の土地に設備を設置する際に次の損害が生じた場合には、償金を支払う必要があります。償金の支払い方法については、一括払いの場合、1年ごとの定期払が可能な場合など明文化されました。また、他人が所有する設備の使用に伴い、その設備の使用開始の際に損害が生じた場合には、償金を支払う必要があるとされました。
従来、土地の所有者は、隣地の竹木の根が境界線を越えるときは自らその根を切り取ることができるものの、枝が境界線を越えるときはその竹木の所有者に枝を切除させる必要があるとされていました(旧民法233)。
改正法は、越境された土地の所有者は、竹木の所有者に枝を切除させる必要があるという原則を維持しつつ、次のいずれかの場合には、枝を自ら切り取ることができることとしました(新民法233Ⅲ)。
1 竹木の所有者に越境した枝を切除するよう催告したが、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき
2 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき
3 急迫の事情があるとき
また、竹木が共有物である場合には、各共有者が越境している枝を切り取ることができるとされました。(新民法233Ⅱ)
以上のとおり、改正法によって相隣関係の法律が明文化され、隣地使用に関するルールが明確になりました。
本改正は、個人所有不動産、法人所有不動産、相続した不動産など、様々な場面で直面しうる問題と関連するものですので、是非改正点を確認することをお勧めいたします。
(弁護士 鈴木 成之)