「農地を貸しているが、借主が農業を全くやっていないので、農地を返してもらいたい。」
現在、耕作されていない農地(これを「耕作放棄地」と呼ぶことがあります。)が増えています。
上記のような悩みを抱える地主さんも多くいらっしゃるでしょう。
そこで、今回は、農地賃貸借契約を『解除』する方法をご説明します。
目次▼
そもそも、農地の賃貸借には主に次の3つの種類があります。
①「農地法」にもとづく賃貸借
②「農業経営基盤強化促進法」にもとづく賃貸借
③「農地中間管理事業の推進に関する法律」にもとづく賃貸借
今回は、①『農地法にもとづく賃貸借』の解除の方法について解説します。
農地法にもとづく賃貸借契約の特徴は、『法定更新制度』です。
『法定更新制度』とは、契約期間の満了前に、「更新をしない旨の通知」を相手方にしないときは、従前の契約と同一の条件で更に契約をしたものとみなされるという制度です。
もう少し詳しく説明すると、農地の貸主は、賃貸借期間満了の1年前から6か月前までの間に、「更新をしない旨の通知」を借主に対してしなければ、農地賃貸借契約はそのまま継続されることになります(農地法17条)。
しかも、「更新をしない旨の通知」をする場合には、都道府県知事の許可が必要となります(農地法18条)。
したがって、現在締結されている『農地法にもとづく賃貸借』契約は、この法定更新制度によって、更新されていることが多いです。
今回のテーマは、この法定更新された農地賃貸借契約を終了させる方法のひとつである『契約解除』ということになります。
『農地』以外の賃貸借契約では、借主が賃料を支払わなかったり、契約の目的に反した利用をしている場合には、当事者間だけで契約を解除できます。
一方で、『農地』の賃貸借契約の解除は当事者間だけではできません。
農地賃貸借契約を解除するためには、都道府県知事の許可が必要となります(農地法18条1項)。
そして、都道府県知事は一定の条件を満たした場合にしか許可しません(農地法18条2項1号から6号)。
では、借主が農地の耕作を放棄している場合に農地賃貸借契約を解除することはできるでしょうか。
また、都道府県知事は解除の許可をしてくれるでしょうか。
賃貸借契約の解除には、まず、解除するための原因が必要です。これを「債務不履行」と呼んだりします。
ところで、農地の借主に限らず、すべての賃貸借契約の借主は、借りている目的物を善良な管理者の注意をもって保管する義務を負っています。これを借主の「善管注意義務」と呼びます。農地賃貸借契約では、借主は「善管注意義務」として、農地を農地として耕作し、管理する義務を負っています。
したがって、借主が農地を耕作していないことは、借主が負っている「善管注意義務」に違反し、解除の原因となる「債務不履行」となります。
もっとも、農地の賃貸借契約を解除するためには、上記のとおり、都道府県知事の許可が必要です。
農地法は、都道府県知事が契約解除を許可する場合を6つほど規定しています。
しかし、今回のテーマである借主の耕作放棄を理由とする「契約解除」では、次の2つの許可条件がポイントとなるので、その2つに絞って解説します。
(1) 「賃借人が信義に反した行為をした場合」(農地法18条2項1号)
(2) 「その他正当の事由がある場合」(農地法18条2項6号)
借主が耕作を放棄している場合は、上記(1)または(2)の許可条件のいずれかに該当する場合があります。
もっとも、注意しなければいけないのは、単に借主が農地を耕作していないという事情だけでは都道府県知事の許可はえられない可能性があるということです。
農地賃貸借の解除が争われた過去の裁判例では、借主の不耕作の事実に加えて、次のような事情がある場合にのみ解除が認められています。
・前橋地裁平成3年2月14日判決
「賃借人の債務不履行による不耕作状態の長期化により、農地が荒廃し、あるいは農地が農地としての現況を止めないような状況になった場合」
・大阪地裁昭和50年4月28日判決
「6~7年間、耕作されることなく放置されていたため、雑草が生え茂り、荒れるに任せるような状態であったことが認められる場合」
すなわち、不耕作の期間が長くなった結果、農地として利用することが直ちにはできない状態になっていることが必要なわけです。
上記のとおり、農地賃貸借契約を解除するためには、数多くの乗り越えるべきハードルがあります。
一方で、農地が耕作されていない場合に農地を返してもらう方法としては、契約を解除する以外にも「合意解約」という方法があります。
「合意解約」とは、貸主と借主の合意のもと、農地賃貸借契約を終了させることです。
合意解約のメリットは、解除の場合と異なり、事前に都道府県知事の許可を得る必要がないという点です(農地法18条1項2号)。
ただし、合意解約は口頭ではできず、「書面」で行う必要があります。
また、合意による解約をした日の翌日から起算して30日以内に、農業委員会に合意解約した旨を「通知」しなければいけません(農地法18条6項)。
弁護士 崎川 勇登、石川 諒