2022年、約8割の生産緑地がその指定から30年を経過することになります。
生産緑地を所有している地主さんは、今後の対応について頭を悩ませていると思われます。
そこで、今回は、生産緑地所有者が2022年を迎えるにあたって、検討すべきことを生産緑地法にもとづきお話しさせていただきます。
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「生産緑地制度」は、都市部に存在する農地を計画的に保全していくためにはじまった制度です。
したがって、生産緑地として指定される農地は、「市街化区域」内にある農地に限られます(生産緑地法3条1項)。
なぜ、都市農地を保全する必要があるかというと、都市農地は、都市に暮らす人々の食を支え、また、身近な農業体験の場や災害時の防災空間としと必要であると考えられているからです。
そのため、生産緑地として指定された農地では、原則として、建築行為が禁止されるなどの一定の制約を受けることになります。
なお、ある農地が生産緑地に指定された場合、市町村には、その旨を示す標識などを設置する義務があります(生産緑地法6条1項)。
したがって、現地を確認すればその農地が生産緑地として指定されているか否かが分かります。
また、市町村が公表している「都市計画」でも、生産緑地か否かを知ることができる場合があります。
生産緑地として指定を受けた場合のメリットは次のとおりです。
・固定資産税が安い。
生産緑地の指定を受けると、農地課税となり、固定資産税が安くなります。
生産緑地に指定されていない市街化区域内の農地は宅地並みの課税がなされることになり、固定資産税が高くなっています。
・相続税の納税猶予が受けられる。
生産緑地の指定を受けている農地では、一定の条件を満たせば、相続税の猶予を受けることができます。
生産緑地の指定を受けていない農地は相続税の納税猶予を受けられません。
一方で、生産緑地として指定された場合のデメリットは次のとおりです。
・農地としての管理が求められる。
生産緑地として指定された農地では、その生産緑地を農地として管理することが法律上、強制されます(生産緑地法7条)。
・土地利用における一定の制限を受ける。
生産緑地として指定を受けた農地では、以下の行為を行う場合には、市町村長の許可を受ける必要があります(生産緑地法8条1項)。
①建築物その他の工作物の新築、改築又は増築(1号)
②宅地の造成、土石の採取その他の土地の形質の変更(2号)
③水面の埋立て又は干拓(3号)
現在、三大都市圏(東京・大阪・名古屋)の市街化区域内農地の約5割の農地が生産緑地として指定されています。また、2022年には生産緑地地区のうち、面積ベースで約8割にあたる生産緑地が、指定から30年を経過することになります。
指定から30年を迎えることの最大の問題は、生産緑地指定から30年を経過する日以後は、上記で示しました「生産緑地」の『メリット』がなくなる一方、『デメリット』は残るということです。
すなわち、生産緑地の固定資産税は宅地並み課税になるほか、相続税の納税猶予も受けることもできなくなります。
一方で、従前どおり、宅地に造成したり、建物を建てたりするには、市町村長の許可が必要となるという制限を受けることになります。
生産緑地を所有する地主さんとしては、当然、このまま生産緑地として所有することのメリットがなくなるため、宅地化して売却したり、貸し出したりすることを考えるでしょう。
そうなると、宅地の供給が突然増える結果、都市部の土地の値段が大暴落するのではないかと心配されています。これが「2022年問題」と呼ばれるものです。
「2022年問題」の対策として、国は、すでに「生産緑地法」を改正して、新たに「特定生産緑地制度」と呼ばれる制度を創設しています。
この制度を簡単に解説すると、生産緑地の上記2つのメリット(固定資産税が安い/相続税の納税猶予が受けられる)が受けられる期間を10年間延長させることができるという制度です。現在、生産緑地として指定されている農地のうち、生産緑地としてこのまま保全する必要があると判断された農地を「特定生産緑地」として指定します。
ただし、注意すべき点は、この「特定生産緑地」への指定は、あくまで市町村長が行うということです(生産緑地法10条の2第1項)。
では、「特定生産緑地」の指定を受けて、そのメリットを享受したいにもかかわらず、市町村長が「特定生産緑地」に指定してくれない場合、どうすればよいのでしょか。
この場合、生産緑地所有者は、市町村長に対して、「特定生産緑地」として指定するように提案することができます(生産緑地法10条の4第1項)。
ただし、この提案を受けた市町村長は必ずその生産緑地を「特定生産緑地」に指定するわけではありません。
市町村長は、提案を受けた生産緑地について指定をしないときには、その旨及びその理由を、提案した者に通知することになっています(生産緑地法10条の4第2項)。
したがって、「特定生産緑地」の指定を受けて、継続して上記2つのメリットを受けられるか否かは、市町村長の判断に依存することになります。
安定した不動産運用を目指される地主さんにとっては、「特定生産緑地制度」は、制度として不安定なところが多く、使いにくい制度といえます。
また、注意しなければならないのは、「特定生産緑地」への指定は、生産緑地の指定を受けた日から30年が経過する日までに受けなければならないことです。
つまり、その日以降は、「特定生産緑地」としての指定を受けることができなくなります。
では、上記の「特定生産緑地指定の提案」以外に、生産緑地所有者がとれる対応はないのでしょうか。
この点、生産緑地所有者は、市町村長に対し、指定から30年を経過した日以降、生産緑地を時価で買い取るように請求することができます(生産緑地法10条1項)。
市町村によっては、生産緑地所有者に対し、買い取り請求をするかどうかのアンケートを実施しているところがあります。
生産緑地所有者から買取請求を受けた市町村長の対応としては次の3つがあります。
①市町村が時価で買い取る(生産緑地法11条1項)。
②買い取りを希望する相手方を指定する(11条2項)。
③買い取らない旨を通知した上で、買取希望者をあっせんする努力をする(13条)。
しかし、①市町村が時価で買い取るという方法には大きな問題があります。それは、多くの市町村では、買取申出がされた生産緑地のすべてを時価で買い取ることは財政的な理由で不可能ということです。
また、②買い取りを希望する相手方を指定する方法も、指定先の「相手方」は地方公共団体や土地開発公社などその他一部の団体に限定されており、容易に見つかるとは思えません。
上記③の方法についても、市町村は買取希望者のあっせんをしてくれるだけで、必ず買取先が見つかるとは限りません。
すなわち、市町村長に「買取申出」をしたが、市町村は買取を拒否したうえで、なかなか買い手が見つからないという状況が多発することが予想されます。
なお、このような場合を見越して、生産緑地法は一応の対策は講じています。
つまり、生産緑地の所有者が市町村長に対し、「買取申出」をした日から3か月以内に、所有権の移転がされない場合には、その生産緑地についての上記2つのデメリットは解除されます(生産緑地法14条)。
しかし、生産緑地を所有される地主さんにとっては、「特定生産緑地の指定の提案」も「買取申出」も不安定要素が多く、安定した不動産運用に支障をきたすおそれが高いです。
結論としては、生産緑地の指定期間を迎える30年が到来する前に、市町村長などの判断に依存しない方法での不動産運用の方法を検討されることがおすすめです。
弁護士 崎川 勇登、石川 諒