長らく借地として貸している土地、あるいは、親の代から継続して貸している借地をなんとかしたいと思いつつ、そのままにしている地主さんも多くいらっしゃると思います。
古くから貸している借地であっても、期間満了を機に契約を終了させて、より収益性の高い賃貸物件を建てるなどして、不動産収益をアップさせることは可能です。
今日は、土地の有効活用を目指す地主さんに対して、「契約更新をせずに、借地を返してもらう方法」についてお話ししたいと思います。
▼目次
借地契約上の土地を返してもらうには、まずは、その借地契約に「借地法」が適用されるのか、それとも「借地借家法」が適用されるのかを明確にしておかなければいけません。
「借地法」は、平成4年8月1日に「借地借家法」が施行されたことにより、廃止されました(借地借家法附則2条2号)。
しかし、「借地借家法」が施行されるよりも前に設定された借地契約の更新に関しては、なお従前の取り扱いがなされることになっています(借地借家法附則6条)。
したがって、平成4年7月31日までに締結され、その後更新が続いている借地契約については、「借地法」が適用されることになります。
そうすると、日本全国で締結されている借地契約には、「借地借家法」ではなく、未だ「借地法」が適用される契約がたくさんあります。
しかし、「借地法」の条文は読みにくく、読んでもよく分からないと思います。
そこで、今回は、「借地法」上の借地を返してもらう方法をメインに解説していきたいと思います。
ところで、土地を目的物とする「借地契約」や建物を目的物とする「借家契約」以外の通常の賃貸借契約では、賃貸借期間が満了すると、当然、目的物は返してもらえることになっています(民法601条)。
この原則を修正しているのが、「借地法」や「借地借家法」ということになります。
借地法では、契約期間が満了した場合であっても、借主が借地の使用を継続しているときには、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(借地法6条1項)。
これを、「法定更新」と呼んだりします。
この規定により、多くの『借地法』上の借地契約は、契約の更新が続いています。
更新された借地契約の存続期間は、原則として『20年』です(例外として、石造りやレンガ造りなどの堅固の建物については『30年』です)。
したがって、更新された借地契約は、前回更新されたときから20年が経たなければ返してもらえないというわけです。
ただし、借主が賃料を支払わないなどの債務不履行があれば、期間の途中でも契約を解除して、土地を返してもらうことは可能です。
上記のとおり、更新された借地契約であっても、20年の更新期間が満了すれば、契約はいったん終了するのですが、借主がその借地の使用を継続している限り、貸主がなんのアクションも起こさなければ、再び「法定更新」がされることになります。
そこで、この機会に借地を返してもらう必要がある地主さんとしては、借地契約が更新されることに対して、「異議」を述べなければいけません(借地法6条1項)。
しかし、地主が上記の「異議」を述べれば、当然に借地契約が終了して、土地を返してもらえるわけではないのです。
この「異議」には、「正当(ノ)事由」が必要なのです(借地法4条1項但書)。
では、次に、どのような事情があれば「正当事由」が認められるのか、「正当事由」の内容について解説していきたいと思います。
まず、借地法では、「正当事由」となる事情がひとつだけ明記されています。それが、「土地所有者が自ら土地を使用することを必要とする」ことです。
つまり、地主さんがその借地を自分で使用する必要がある事情は、「正当事由」が認められるための重要な事情のひとつということです。
しかし、借地法上の「正当事由」は、上記の①「地主の土地使用の必要性」だけを考慮して判断されるわけではありません。
裁判所は、①以外にも、次のような事情を「正当事由」の有無を判断する上において考慮しています。
②「借主の土地使用の必要性」
③借主が誠実に債務(賃料支払債務など)を履行してきたかや、権利金、更新料を支払っていたかなどの「借地に関する従前の経過」
④借地上の建物の利用法などの「土地の利用状況」
⑤相当額の立退料などの「財産上の給付」
しかし、「正当事由」の有無の判断においては、上記の①から⑤の事情のすべてが同じくらいの重要性をもって考慮されるわけではありません。
そこには、『主たる要素』と『従たる要素』があるのです。
『主たる要素』として考慮されるのは、上記①「地主の土地使用の必要性」と上記②「借主の土地使用の必要性」です。
そのほかの③から⑤は『従たる要素』として、①及び②を補完する要素になります。
すなわち、一方の土地の必要性が極めて高い場合には、原則として、『主たる要素』である①と②の判断のみで「正当事由」が判断されることになります。
これに対して、土地使用の必要性が双方にある程度認められる場合には、③から⑥の『従たる要素』も補完的に考慮されることになります。
したがって、借地の返還を求める地主さんは、「法定更新」への「異議」を述べる際には、まずは土地の使用を必要とする事情を強く主張しなければいけません。
それでは、今日のテーマでもある、賃貸物件などを新しく建てるなどして土地を有効活用したいという地主さんの事情は、①「地主の土地使用の必要性」として考慮されるのでしょうか。
この点について、地主が、借地に大型スーパーなどを建築することを主張して借地の返還を求めた事案において、裁判所は、①「地主の土地使用の必要性」には、地主自らが直接使用する必要性だけでなく、借地の経済的な利用の必要も含まれる、と述べています(東京地方裁判所平成25年3月14日)。
したがって、地主側の土地の有効利用をしたいという事情も「正当事由」の判断において、考慮されることになります。
もっとも、上記裁判例は、次のようにも述べています。
地主側には土地を使用する必要性を一応認めることができるが、もっぱら経済的な利益を目的とするものであることからすれば、その必要性は高いとまではいえない。
つまり、『主たる要素』である①「地主の土地使用の必要性」は、一応は認められるが、そこまで強くないというわけです。
そこで、地主側としては、①を補完する事情として、③から⑥の事情を検討しなければいけません。
土地の有効利用を理由に借地の返還を求める地主さんは、上記のとおり、③「借地に関する従前の経過」、④「土地の利用状況」、⑤「財産上の給付」を検討しなければいけないのですが、土地が返ってくるか否かの分水嶺となるのは、⑤「財産上の給付」となる場合が多いです。
⑤「財産上の給付」は、金銭以外の現物であっても問題ないのですが、現実には「立退料」という形で、金銭の給付がなされることがほとんどです。
なお、「立退料」はあくまで地主側の「正当事由」を補完する事情のひとつであって、借主側に「立退料」を請求できる権利はありません。
一方で、借主側には、借地上の建物を時価で買い取るように地主側に請求することができる「建物買取請求権」があります(借地法4条2項)。
では、立退料の「相当額」はどのように決まるのでしょうか。
地主さんとしては、当然できる限り少ない立退料での借地の返還を達成したいところです。
立退料の金額交渉では、よく『借地権価格』がひとつの基準とされます。
『借地権価格』は、国税庁が毎年公表している「路線価」をもとに算出されることが多いのですが、これは、借地権を第三者に売却する場合に権利譲渡の対価に対し、国が税金を課すことを目的に便宜上、決めているものにすぎません。
そもそも、立退料とは、①「地主の土地利用の必要性」と②「借主の土地利用の必要性」とを比較した結果、それだけでは「正当事由あり」という判断ができない場合に、それを補完する役割のものでした。
すなわち、『借地権価格』がそのまま「立退料相当額」に影響するという考えは、理論的には正しくありません。
「立退料相当額」は、地主と借主の土地利用の必要性の検討の結果から導かれた「正当事由」の充足度によって決定されるものなのです。
したがって、地主側としては、返還を求める借地の周辺不動産の利用状況なども綿密に調査した上、土地の有効利用の必要性を十分に主張することが大切となります。
弁護士 崎川 勇登、石川 諒