近時、顧客や取引先からの著しい迷惑行為に関するニュースを目にすることが多くなり、ご相談も増えております。こうした迷惑行為は、「カスタマーハラスメント(カスハラ)」と呼ばれています。
厚生労働省の令和2年度「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、全国の企業・団体に勤務する20~64歳の労働者が過去3年間に経験したハラスメントは、パワハラ(31.4%)、カスハラ(15.0%)、セクハラ(10.2%)の順に多く、カスハラがセクハラを上回る結果となりました。
受けた迷惑行為の内容としては、「長時間の拘束や同じ内容を繰り返すクレーム(過度なもの)」が52.0%、名誉棄損・侮辱・ひどい暴言が46.9%となっています。
令和5年9月、精神障害の労災認定基準が改正されましたが、上記の実態を踏まえ、業務による心理的負荷評価表の具体的出来事の中に、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」という項目が追加されました。
そして、以下のような場合は、心理的負荷の強度が「強」とされ、他に特段の事情がない限り、労災認定に至ることになります。
今回の労災認定基準の改正を踏まえ、使用者としては、カスハラを漫然と放置すると従業員の労災に発展する可能性があるばかりか、場合によっては安全配慮義務違反にも問われかねないことに留意する必要があります。
また、こうした迷惑行為は、労災の問題にとどまらず、事案によっては脅迫罪、強要罪、名誉棄損罪、威力業務妨害罪等の犯罪に該当する可能性もあることから、事業者としては、カスハラを単なるクレームとしてではなく、事業の円滑な運営を阻害する反社会的行為として捉え、断固として拒絶するという態度で臨む必要があります。
これまでは、「お客様は神様です」という言葉が示すように、取引先との関係を最優先するあまり、多少の無理難題は呑み込んで当たり前という風潮があったように思われますが、従業員に土下座を要求する等の著しい迷惑行為をする顧客は、神様どころか縁を切るべき相手ではないでしょうか。
平時におけるカスハラ対策の具体的内容ですが、基本的にはパワハラ防止措置と同様、①事業主の方針を明確化し、これを従業員に周知・啓発すること、②従業員からの相談について対応体制を整備することが適切です。また、③対応ルールやマニュアル等を策定して従業員への教育・研修を行うことも必要です。
事案が発生した場合は、被害を受けたとされる従業員の当該顧客からの切り離し(担当替え)を検討するとともに、メンタル面でのケア等の措置を講じることが重要です。さらに、事案によっては、警察や行政機関等と連携して対応すべき場合もあります。
なお、顧客からのクレームや苦情が全てカスハラに該当するわけではなく、パワハラと同様、線引きが難しい面もありますので、具体的事案にあたっては、従前の相手方とのやり取りの経緯、両者の関係、行為態様、違法性の程度等、様々な事情を考慮して適切な対応をすることが肝要です。
(弁護士 内田 靖人)