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医師の応招義務をどう考えるか(行政解釈上の整理について)

2023.10.30 Mon  PHI LAW OFFICE STAFF

1 応召義務とは

 医師法(昭和23年法律第201号)第19条第1項においては、「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」としています。これが医師の「応招義務」と言われるものです。

2 応召義務違反の効果

(1)刑事上の責任

 現行医師法には罰則規定はなく、刑事責任は原則問われません。

(2)行政上の責任

 応招義務違反についての直接の罰則規定はありません。ただし、違反が繰り返されるような場合は、「品位を損する行為」(医師法7条2項)として、「戒告」、「3年以内の医業停止」、「免許取消し」がなされる場合があります。

(3)民事上の責任

 医師又は歯科医師が国に対して負担する公法上の義務であり、医師又は歯科医師の患者に対する私法上の義務ではありません。そのため、民事上の損害賠償責任を生じさせるものではありませんが、裁判例には、損害賠償責任を認めたものもあります。

3 応召義務についての行政解釈

(1)経緯及び概要

 これまでの行政解釈として、医療報酬の不払を理由として診療を拒むことができない、診療事案を制限している場合でもこれを理由として急患の診療を拒むことができない(昭和24年9月10日厚生省医務局長通知)、軽度の疲労を理由に診療を拒絶することは応召義務違反となる(昭和30年7月26日厚生省医務局医務課長回答)、といった指針がありました。
 しかし、患者から再三クレームを言われるなどし、信頼関係が破壊されている場合や、支払能力があるにもかかわらず医療費を支払わない場合にも、応召義務があるのかという問題について、明確な基準などは示されていませんでした。
 これらの点について、令和元年12月25日、「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」(医政発1225第4号、以下「令和元年通知」といいます。)が示されました。
 画期的なのは、令和元年通知では、応召義務の診療を拒否できる「正当な事由」について、一定の指針が示されたことです。

(2)令和元年通知における「診療の求めに応じないことが正当化される場合の考え方」

 令和元年通知は、医療機関の対応としてどのような場合に患者を診療しないことが正当化されるか否か、また、医師・歯科医師個人の対応としてどのような場合に患者を診療しないことが応招義務に反するか否かについて、最も重要な考慮要素は、 「患者について緊急対応が必要であるか否か(病状の深刻度)である」としています。
 このほか、医療機関相互の機能分化・連携や医療の高度化・専門化等による医療提供体制の変化や勤務医の勤務環境への配慮の観点から、次に掲げる事項も重要な考慮要素であるとしています。
  ア 診療を求められたのが、診療時間・勤務時間内であるか、それとも診療時間外・勤務時間外であるか
  イ 患者と医療機関・医師・歯科医師の信頼関係
 そして、患者を診療しないことが正当化される例として、次のような整理をしました。

(3) 患者を診療しないことが正当化される事例の整理

① 緊急対応が必要な場合(病状の深刻な救急患者等)

ア 診療を求められたのが診療時間内・勤務時間内である場合

 医療機関・医師・歯科 医師の専門性・診察能力、当該状況下での医療提供の可能性・設備状況、他の医療機関等による医療提供の可能性(医療の代替可能性)を総合的に勘案しつつ、事実上診療が不可能といえる場合にのみ、診療しないことが正当化される。

イ 診療を求められたのが診療時間外・勤務時間外である場合

 応急的に必要な処置をとることが望ましいが、原則、公法上・私法上の責任に問われることはない。

② 緊急対応が不要な場合(病状の安定している患者等)

ア 診療を求められたのが診療時間内・勤務時間内である場合

 原則として、患者の求めに応じて必要な医療を提供する必要がある。ただし、緊急対応の必要がある場合に比べて、正当化される場合は、医療機関・医師・歯科医師の専門性・診察能力、当該状況下での医療提供の可能性・設備状況、他の医療機関等による医療提供の可能性(医療の代替可能性)のほか、患者と医療機関・医師・歯科医師の信頼関係等も考慮して緩やかに解釈される。

イ 診療を求められたのが診療時間外・勤務時間外である場合

 即座に対応する必要はなく、診療しないことは正当化される。ただし、時間内の受診依頼、他の診察可能な医療機関の紹介等の対応をとることが望ましい。

(4) 個別事例ごとの整理

① 患者の迷惑行為


 診療・療養等において生じた又は生じている迷惑行為の態様に照らし、診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合には、新たな診療を行わないことが正当化される。

② 医療費不払い


 以前に医療費の不払いがあったとしても、そのことのみをもって診療しないことは正当化されない。しかし、支払能力があるにもかかわらず悪意をもってあえて支払わない場合等には、診療しないことが正当化される。

③ 入院患者の退院や他の医療機関の紹介・転院等


 医学的に入院の継続が必要ない場合には、通院治療等で対応すれば足りるため、退院させることは正当化される。医療機関相互の機能分化・連携を踏まえ、地域全体で患者ごとに適正な医療を提供する観点から、病状に応じて大学病院等の高度な医療機関から地域の医療機関を紹介、転院を依頼・実施すること等も原則として正当化される。

④ 差別的な取扱い


 患者の年齢、性別、人種・国籍、宗教等のみを理由に診療しないことは正当化され ない。ただし、言語が通じない、宗教上の理由等により結果として 診療行為そのものが著しく困難であるといった事情が認められる場合には この限りではない。

⑤ 訪日外国人観光客をはじめとした外国人患者への対応


 外国人患者についても、診療しないことの正当化事由は、日本人患者の場合と同様に判断するのが原則である。ただし、文化や言語の違い等により、結果として診療行為そのものが著しく困難であるといった事情が認められる場合にはこの限りではない。

 以上が個別事例ごとの整理ですが、このような場合であっても、緊急対応が必要な場合で、診療時間内・勤務時間内の場合は、(3)のように原則として、診療を行う必要がありますので、注意が必要です。


 
 このように、令和元年通知により、応召義務の例外として、患者を診療しないことが正当化される例が分かりやすくなったということができます。
 しかし、現実の臨床の現場においては、このような概念的な区別が直ちに当てはまらない場合や、限界事例も多く存在しています。
 そのために、できるだけ多くの場面を想定したマニュアルを作成し、即時に対応できるように事前の準備をするか、弁護士などの専門家に相談できる体制を整えておいた方がよいでしょう。

(弁護士 鈴木 成之)

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